大阪医科大のアルバイト職員だった女性の賞与不支給を巡る訴訟と、東京メトロ子会社メトロコマースの元契約社員の退職金不支給を巡る訴訟で、それぞれ賞与と退職金が支給されないのは違法だとして是正を求めた2件の訴訟で、最高裁はいずれも不支給は不合理とはいえないとの判決を出しました。個人的な感想としては、高裁判決を覆して、真っ当な判決を出していただいて、一企業経営者としてほっとしています。
さて、今回は正社員と非正規社員の待遇差(報酬差)が合理的な範囲であるかどうかが争点となっておりましたが、その主要な論点について、判決文を通して考察していければと思います。
大阪医科大のアルバイト職員だった女性の賞与不支給を巡る訴訟
こちらが、最高裁判決文の要旨です。
労働契約法20条は有期労働契約を結んだ労働者と無期労働契約を結んだ労働者の労働条件の格差が問題になったことを踏まえ、有期労働契約を結んだ労働者の公正な処遇を図るため、労働条件について期間の定めがあることで不合理なものとすることを禁止した。賞与の支給も「不合理」に当たる場合はあり得る。使用者における賞与の性質や支給目的を踏まえ、同条所定の諸事情を考慮し、不合理と評価できるか否かを検討すべきだ。
日本経済新聞より
正職員への賞与は基本給とは別の一時金として財務状況を踏まえ、その都度支給の有無や支給基準が決められる。賞与は通年で基本給の4.6カ月分が一応の支給基準となっており、労務の対価の後払いや一律の功労報償、将来の労働意欲の向上などの趣旨を含む。
女性の業務は相当に軽易とうかがわれる。正職員は英文学術誌の編集、病理解剖に関する遺族対応、部門間の連携を要する業務、試薬の管理にも従事する必要があり一定の相違は否定できない。正職員は人事異動の可能性がありアルバイト職員に配置転換はなかった。職務内容を考慮すれば、契約職員に正職員の約80%に相当する賞与が支給され、女性への年間支給額が2013年4月に新規採用された正職員の基本給や賞与の合計額と比べ55%程度の水準だったことなどを斟酌(しんしゃく)しても、労働条件の相違は不合理とまでは評価できない。
今回のケースにおいて、正社員への賞与は「労務の対価の後払いや一律の功労報償、将来の労働意欲の向上などの趣旨を含む」こと、正社員とアルバイトでは「(業務内容に)一定の相違は否定できない」、また「正職員は人事異動の可能性がありアルバイト職員に配置転換はなかった。」ことから、「労働条件の相違は不合理とまでは評価できない」という判決になったということですね。
雇用契約の有期・無期によらず、同一労働同一賃金の原則に照らせば、業務内容と職責に一定の差があるので、そもそも同一労働じゃないよという判断をしたということですね。この記載の内容であれば、企業人としては明確な違いあるので、高裁判決は一体なんだったんだと突っ込みたくはなります笑
ただし、「賞与の支給も「不合理」に当たる場合はあり得る」としているので、アルバイトであっても、正社員と全く(もしくは限りなく)同じ業務内容と職責を担わせられていれば、賞与の不支給が不合理になる可能性があるということを示唆していますので、その点は重要ですね。
東京メトロ子会社メトロコマースの元契約社員の退職金不支給を巡る訴訟
そして、こちらも最高裁判決文の要旨です。
退職金の支給も「不合理」に当たり得る。退職金の性質や支給目的を踏まえ同条所定の諸事情を考慮し不合理と評価できるかを検討すべきだ。
日本経済新聞より
退職金は労務の対価の後払いや継続的な勤務の功労報償など複合的な性質を有し、職務を遂行し得る人材の確保や定着を図る目的から様々な部署で継続的に就労することが期待される正社員に支給される。
正社員は売店で休暇や欠勤で不在の販売員に代わり早番や遅番を担い、複数の店を統括し、エリアマネジャー業務に従事することがあった。契約社員は売店業務専従で一定の相違があったことが否定できない。
正社員は配置転換を命じられる可能性があり、正当な理由なく拒否できないのに対し、契約社員は働く場所を変えられても業務に変更はなく、職務や配置変更の範囲にも一定の相違があった。
契約社員の有期労働契約は原則的に更新され、定年は65歳と定められるなど、必ずしも短期雇用が前提とは言えず、原告の勤続期間が10年前後であることを斟酌しても、労働条件の相違は不合理とまでは評価できない。
メトロコマースの件も、「(正社員は)複数の店を統括し、エリアマネジャー業務に従事することがあった。契約社員は売店業務専従で一定の相違があった」「正社員は配置転換を命じられる可能性があり、正当な理由なく拒否できないのに対し、契約社員は働く場所を変えられても業務に変更はなく、職務や配置変更の範囲にも一定の相違があった」ということで、こちらも同様に業務内容と職責に一定の差があるので、そもそも同一労働じゃないよという判断をしたということですね。
企業経営者は、この問題をどう捉えるべきか
今回の最高裁判決を踏まえると、正社員と非正規社員との処遇差について、一定の業務内容(範囲)に差があり、職責にも差があれば、非正規社員は賞与や退職金の非支給となっていても問題ない(正確にいえば、不合理とまでは評価できない)ということになったと思います。
なので、非正規社員に対してボーナスなし・退職金なしとしている会社においては、非正規社員の業務内容と職責を確認し、正社員との間で一定の差があることが確認されれば、人事制度も現状維持ということで問題ないでしょう。
但し、正社員か非正規社員かという雇用形態で、賞与や退職金の支給有無を決められるという理解をしている企業経営者は未だ多いと思いますので、その点については正しい理解にアップデートする必要があります。
しかし、正社員と非正規社員の間で、業務内容や職責に差が実質的にほぼないとみられる場合であれば、その処遇差は不合理であると判断される可能性があることから、そのような場合は、非正規社員を積極的に正社員に登用すべきでしょう。(=実態として正社員並の働きをしているのであれば問題ないはず)
人件費を過度に抑制するために、(労働力搾取の意図があり)非正規社員に正社員と同等の業務を求めているということであれば、流石にそうした実態は是正されるべきなので、処遇差の見直しをしていく必要がありますね。