今回は、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の本丸、「フロント業務のデジタル化(ビジネスモデルのDX)」について考察していきたい。
「フロント業務のデジタル化(ビジネスモデルのDX)」が何故本丸と考えているかといえば、収益を生み出すフロント業務自体をデータとデジタル技術で革新していくことが、最も大きな付加価値を生み出しうるとともに、最も難易度が高い挑戦になるからだ。
フロント業務のデジタル化(ビジネスモデルのDX)とは、どういうことか?
フロント業務のデジタル化(ビジネスモデルのDX)は、決して簡単ではない。難易度が高く、失敗する可能性があるし、時間も長期に渡る。デジタル技術に対するリテラシーも求められる。
フロント業務のデジタル化とは何かを考えた場合、大きく3つのアプローチがあると思う。
- デジタル技術の活用により、既存のビジネスプロセスのスピードや精度を向上する
- デジタル技術の活用により、既存のビジネスに新たな付加価値(機能やサービス)を追加する。
- デジタル技術の活用により、ビジネスモデル自体を刷新する/新規事業を立ち上げる
それぞれレベル感は異なるが、どれもDX(デジタル・トランスフォーメンション)により企業競争力を上げることに繋がるのは同じだ。しかし、どの企業も3のビジネスモデルのDXを目指す必要はないと思う。マーケットの外部環境が大きく変化しない見通しなのであれば、1と2を追求するだけでも、十分に競争力を高められるはずである。
「フロント業務のデジタル化」が具体的に何を行うことなのかは、業種により、企業のステージや組織能力により様々なので、一般化することは残念ながら難しいと思う。但し、共通して重要なことは「経営者のデジタル・リテラシーを高めること」と「あるべき姿から逆算して考える」ことだろう。
データやデジタル技術に一定の理解ができれば、それを用いて、自社事業にどう転用可能か想像することができる。例えば、AIの普及により、チャットボットサービスが生まれてきた。AIベースのチャットボットを活用して、自社のコールセンターはどうあるべきか考えてみる、ということはできるはずだ。そして、本質的に人間がやらなくて済む業務は機械(AI)にやらせて、人間は人しか対応できない業務のみ行うというビジョンを打ち立てる。そのビジョンが明確であれば、現場は「フロント業務のデジタル化」に向けて動きやすくなるはずだ。
ビジネスモデルのDXの成功事例
DX(デジタル・トランスフォーメーション)で、ビジネスモデルの変革を続け大きな成功を収めた代表例は、NETFLIX(ネットフリックス)だ。
その歴史は、wikipediaを参照いただきたいが、DXによるビジネスモデルの変革という視点でまとめると、次のようになる。
1998年:ウェブサイトによるDVDレンタルサービスを開始
1999年:月額定額制のサブスクリプションモデルを導入(延滞料金、送料・手数料が全て無料)
2000年:会員の評価に基づき、各会員にお勧めの作品を提示する「レコメンド機能」を導入
2007年:DVDレンタルサービスからストリーミング配信サービスに移行
2013年:オリジナル作品「ハウス・オブ・カード」でビッグデータを活用して、適任の監督・俳優を選任
2014年〜:ビッグデータを信じて監督や俳優を選ぶことを基本に。海外展開においてもビッグデータを全面活用
2017年:作品の評価を、5つ星評価から、サムズアップ・サムズダウンの評価方法に変更。これに合わせて、レコメンドも「マッチ率」方式に変更
1990年代は、ブリック&モルタルと呼ばれる店舗型のビデオレンタルショップが全盛で、アメリカではブロックバスター社が君臨していた。そうした状況の中、インターネットとDVDの普及のタイミングに合わせて、ネットフリックスがオンラインによるDVDレンタルで殴り込んだのである。
創業期からDXで勝負をしかけていった訳だが、最も大きな変換点は、ストリーミング配信へのビジネスモデル変換だ。これは、過去のビジネスモデルとの決別を意味するので非常に大きな挑戦だったはずで、リード・ヘイスティングスCEOも非常に大変だったとインタビューで述懐している。しかし、インターネットの高速化とDVDのキャパシティの有限性を鑑みると、ストリーミング配信はいつか必ずくる未来であり、ネットフリックスはそこに大きく投資して、勝利したわけである。
その次に驚くべきは、オリジナル作品の制作にビッグデータを積極的に活用していることだろう。ネットフリックスのCPO(最高プロダクト責任者)のグレッグ・ピーターズは次のように語っている。
メンバーに関してはすべての行動を分析しています。具体的には、どのコンテンツを見たのか、あるいは見なかったのか、どのくらいの速度で見たのか、どのデバイスで見たのか、1日のいつ見たのかといったことです。夜見たいものと昼に見たいものでも変わってきますから。
出典:日経XTREND
コンテンツについては、監督やキャスト、脚本はもちろん、どれくらい見る人にとって複雑な内容か、シーンの数、ロケーションの数といったデータを組み合わせて、それがメンバーに合ったものかを検討します。
これらのデータを組み合わせて、個々のメンバーの視聴傾向を分析すると同時に、メンバー全体で見たときにどんなものが求められているかも分析し、次にどんなオリジナルコンテンツを制作するかを決めていきます。出来上がったコンテンツをメンバーにどう見てもらうのかというデータもあり、また次のコンテンツ制作に生かされます。
あらゆるデータを駆使して、事業運営のハンドリングをしていることがわかるだろう。データをここまで頼るのは、データがFACT(事実)であり、それを適切に活用することで、事業運営の判断精度(結果としての成功率)を高められるからだ。
日本の中小・中堅企業においても、ネットフリックスのレベルまではいけないにしても、データドリブン経営に移行することは可能であり、積極的に挑戦していくべきだと思う。
参考)ネットフリックスの歴史
1997年 – リード・ヘイスティングスとソフトウェア・エグゼクティブのマーク・ランドルフが、オンライン映画レンタルを提供するNetflixを共同設立。
出典)https://media.netflix.com/en/about-netflix(翻訳:DeepL)
1998年 – Netflixが初のDVDレンタル・販売サイト「netflix.com」を開設。
1999年 – Netflixが定額制サービスを開始し、月額料金を抑えて無制限のDVDレンタルを提供。
2000 年 – Netflix がパーソナライズされた映画推薦システムを導入。
2002年 – Netflixが新規株式公開(ナスダック市場にティッカー「NFLX」で株式公開、米国内の会員数は60万人)。
2003年 – Netflix の会員数が100万人を突破。Netflix が米国特許商標庁から定額制レンタルサービスの特許を取得。
2004年 – Netflixの会員数が200万人に到達。
2006年 – Netflix の会員数が 500 万人に達する。
2007年 – Netflixがストリーミング配信を開始。
2008年 – Netflixが家電メーカーと提携し、Xbox 360、ブルーレイディスクプレーヤー、テレビのセットトップボックスでのストリーミング配信を開始。
2009年 – Netflixは、PS3、インターネットに接続されたテレビ、その他のインターネットに接続されたデバイスでのストリーム配信を行うために、家電メーカーとの提携を拡大。Netflixの会員数が1,000万人を突破。
2010年 – NetflixがAppleのiPad、iPhone、任天堂のWiiでも利用できるようになりました。カナダに進出。
2011年 – 中南米とカリブ海地域でNetflixの配信を開始。
2012年 – Netflixがイギリス、アイルランド、北欧諸国を含むヨーロッパでデビュー。Netflix の会員数が 2,500 万人に到達。
2013年 – Netflix がオランダに進出。Netflixは、「ハウス・オブ・カード」などのオリジナル番組を初公開。Netflixが「プロフィール」機能を発表。これは、ユーザーごとに異なるプロフィールを作成したり、気分によって異なるプロフィールを作成することができます。
2014年 – Netflixが欧州6カ国(オーストリア、ベルギー、フランス、ドイツ、ルクセンブルク、スイス)でサービスを開始。Netflixの会員数が5000万人を突破。
2015年 – Netflixがオーストラリア、ニュージーランド、日本でサービスを開始し、イタリア、スペイン、ポルトガルではヨーロッパ全域で継続的に拡大。
2016年 – Netflixが130カ国に拡大し、世界の合計190カ国以上、21言語の会員にサービスが提供されるようになる。Netflixが「ダウンロード」機能を発表。
2017年 – Netflixが『ホワイト・ヘルメッツ』が最優秀ドキュメンタリー短編主題賞を受賞し、初のアカデミー賞を受賞。Netflixが全世界で1億人の会員数を達成。
2018年 – Netflixが “イカロス “でアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞。
2019年 – Netflixは「ROMA」で監督賞、外国語映画賞、撮影賞を含む4つのアカデミー賞を受賞。