企業のミッション、ビジョン、バリューを作るお手伝いをさせていただくことがあります。
各社各様なので、どうすれば素晴らしいミッション、ビジョン、バリューが作れるのかは、一概に言い切れないとは思っているのですが、私が自分なりに考えていることをまとめてみたいと思います。
ミッション、ビジョン、バリューとは
ミッション(Mission)とは、存在意義(社会に対しての価値貢献の宣言)である。
- 我々の存在価値はなにか? 我々が存在することにどのような社会的な意義があるのか?を答えるものである。
- 重要なことは、「社会(世の中)に対して」の宣言であること。
- 自社ならではの独自性(ユニークさ/オリジナリティ)があるべきである。
- 崇高な目的であるべきで、挑戦的・野心的な表現がよい。ゆえに、永続性があるべきで、どこかのタイミングで達成できてしまうものではない。
ビジョン(Vision)とは、将来のありたい姿(自分たちの未来像)である。
- 我々は将来どうなりたいのか? 将来成功している状態とはどのようなものか?を答えるものである。
- 重要なことは、「我々(自社)に対して」の宣言であることであり、ビジョンは企業が進むべき方向性を指し示すものである。
- 成功のイメージをある程度具体的に表現しており、ビジョンがあることで従業員が動機付けされるべき(ワクワクの源泉)である。
- 必須ではないが、「時間軸」の概念があった方が良い。”いつ”そのビジョンに到達していたいかが共有されることで、実現が加速する。
バリュー(Value)とは、組織共通の価値観(悩んだ時に頼るべき行動指針)である。
- 我々が組織として共有すべき価値観(信念や原則)は何か? 皆が日々の業務でどうすべきか悩んだ時に頼るべき行動指針は何か?を答えるものである。
- 重要なことは、バリューをつくることではなく、バリューを「組織に浸透させる(根付かせる)」ことである。
- バリューとは、標語(概念)ではなく、「実際に行動する」ことである。どう行動したかがバリューであり、行動に移されないバリューは、バリューと呼ぶに値しない。
- バリューが本当に必要になってくるのは、ある程度組織が大きくなってから(50名〜)である。
ミッション、ビジョン、バリューの参考事例
ここでは、私が参考になると思ったミッション、ビジョン、バリューの事例を3つご紹介します。
ソフトバンクグループ(出典)
- ミッション(経営理念):情報革命で人々を幸せに
- ビジョン:世界の人々から最も必要とされる企業グループ
- 300年間成長し続ける企業グループ
- 戦略的シナジーグループ(志を共にするグループ企業を30年以内に5,000社規模)
- 次の時代を担う後継者の育成
- バリュー:
- 「No.1」:やる以上は圧倒的No.1
- 「挑戦」:失敗を恐れず高い壁に挑み続ける
- 「逆算」:登る山を決め、どう行動するか逆算で決める
- 「スピード」:スピードは価値。早い行動は早い成果を生む
- 「執念」:言い訳しない、脳がちぎれるほど考え、とことんやり抜く
三井物産(出典)
- ミッション:大切な地球と、そこに住む人びとの夢溢れる未来作りに貢献します。
- ビジョン:世界中のお客様のニーズに応える「グローバル総合力企業」を目指します。
- バリュー:
- 「Fairであること」、「謙虚であること」を常として、社会の信頼に誠実に、真摯に応えます。
- 志を高く、目線を正しく、世の中の役に立つ仕事を追求します。
- 常に新しい分野に挑戦し、時代のさきがけとなる事業をダイナミックに創造します。
- 「自由闊達」の風土を活かし、会社と個人の能力を最大限に発揮します。
- 自己研鑽と自己実現を通じて、創造力とバランス感覚溢れる人材を育成します。
マネーフォワード(出典)
- ミッション:お金を前へ。人生をもっと前へ。
- ビジョン:すべての人の、「お金のプラットフォーム」になる。
- バリュー:
- User Focus:私たちは、いかなる制約があったとしても、常にユーザーを見つめ続け、本質的な課題を理解し、ユーザーの想像を超えたソリューションを提供します。
- Technology Driven:私たちは、テクノロジーこそが世界を大きく変えることができると信じています。テクノロジーを追求し、それをサービスとして社会へ提供していくことで、イノベーションを起こし続けます。
- Fairness:私たちは、ユーザー、社員、株主、社会などのすべてのステークホルダーに対してフェアであること、オープンであることを誓います。
いかがでしょうか?各社の特徴がしっかり出ていると思われませんか?
ソフトバンクは、孫社長自身がよく口にする言葉をミッション、ビジョン、バリューに落とし込んでいますね。創業者色が、いい意味で強く現れています。
三井物産は、70年続く一大総合商社としての風格(格式)を感じさせるミッションとビジョンになっていて、バリューは現在から未来を見据えて作り込んだように思われます。
マネーフォワードは、非常にシンプルですが、実は力強いミッション、ビジョン、バリューになっていますし、マネーフォワードらしさがしっかりと表現されているユニークなものになっています。
ミッション、ビジョン、バリューはどうやって作るべきか?
ミッション、ビジョン、バリューは、誰がどうやって作るのか?
ミッション、ビジョン、バリューともに、非常にパーソナル(その企業特有)なものであるはずで、企業内部で作られるべきであることは疑いようがありません。
また、創業ベンチャーであるマネーフォワードと、世代を超えてグローバルで戦う三井物産とでは、作り方は違って当たり前のはずで、企業のステージや規模によって、正しいプロセスも変わってくるでしょう。
その前提で、私が考える、こういう作り方がいいのではないかという案をご紹介します。
まず、ミッションですが、これは経営者(社長)個人の理念、哲学(思想)、エゴ(欲求)から生まれてくるものでいいと思います。社長本人が、その企業の器を使って、人生を通して何を達成したいかという究極目標が、その企業のミッションになるのでいいと思います。そう考えると、社長自身が自分自身の内面と向き合い、自己理解を深めていかないと、普遍性のある尖ったミッションは生まれてこないかもしれません。
次にビジョンですが、企業の将来は、経営者一人ではなく、チームで実行・実現していくべきものです。であれば、ビジョンは経営者(社長)一人で決めるよりも、経営チームで議論しながら形作っていったほうが、より骨太になるはずと考えています。社長発のビジョンであって勿論いいのですが、そこに役員クラスも議論に入り、会社の将来がどうあるべきか語り合い、ハイコンテキストなレベルでビジョンを共有することができれば、その後の経営方針でもズレがでることは少なくなるでしょう。
最後にバリューですが、これは組織全体に浸透し、根付くものにならなければなりません。古参の社員から、新入社員まで従業員全員が、バリューに対して理解・共感している状態が理想です。この目指すべき状態を踏まえると、バリューの作り方のプロセスが重要で、トップダウンだけで行うよりも、若手や中堅社員を巻き込んでボトムアップのプロセスで進めた方が、出来上がったバリューに”自分たちのバリュー感”が出やすくなり、その分組織への浸透がスムーズに進みます。
ミッション、ビジョン、バリューは、変えていいものなのか?
これは、「YES(変えてもいい)」なのですが、どれも簡単に変えていいものではないので、原則としては慎重に時間をかけながら、ということになるでしょう。
まずミッションですが、ミッションは企業が存在し続けるべき根源的理由と言えるので、一度定めたら長期(10年以上)に渡って不変であるべきものだと考えています。それくらいの覚悟を持って、定める。ということが大事でしょう。
次にビジョンは、達成しうるものなので、変わりえます。とはいえ、安易に変えるべきではなく、中期(5年〜程度)に渡って維持すべきものと考えておきましょう。自社が成長(成功)し、ビジョンの達成が近づいてきたら、さらなるビジョンを打ち立てるべきタイミングです。
最後にバリューですが、バリューは組織の成長や保有する事業とともに、変化していってよいものです。例えば、事業が多角化していき、働く人の属性も多様化していけば、最適なバリューは変わってくるはずです。とはいえ、新しいバリューが根付くのに(年単位で)時間がかかるので、安易に変えるべきではないでしょう。