TOM(Technology & Operation Management)という授業があるのですが、この授業はオペレーション、特にSCM(サプライチェーンマネジメント)に焦点をあてています。担当のポール教授は、結構年ですが、毎回元気はつらつで、教室内を動き回っています
本日のケースは、ZARA(ザラ)。スペイン発の衣料品メーカーですが、ZARAはブランド名で、企業名はInditexといいます。(当の私も、ケースを読むまではZARAという会社があるものだと思っていました)ZARAは、今現在も世界で出店を続け、成長を維持しています。
今回のケースは、非常に読み応えがありました。読まされ感があり、退屈するケースも多いのですが、ZARAは、思いもよらぬ方法(仕組み)で非常にユニークなビジネス・モデルを創り上げており、学ぶ点が多かったです。
さて、ZARAは何をうまく行ったかというと、
思想 ⇒ 戦略 ⇒ 制度・仕組み ⇒ 実行 の工程順で、明快なビジネスモデルを創りこんだことです。
※思想:当該ビジネスに対する基本スタンス
戦略:競争に勝つための基本方針
制度・仕組み:戦略を実行するため決め事やビジネス基盤。SCMはここ。
実行:どのように実行するか
ZARAが、衣料品ビジネスを行う上での拠り所とした【思想】とは、
・衣料品業界において、消費者のニーズは絶え間なく移り変わり、需要を”予測”することは不可能である。
というものです。移り変わりの激しい消費者ニーズを読むことに力点をおいて、商品設計、需給調整を試みるメーカーが多い中で、ZARAはそもそも消費者ニーズを予測しないで、ビジネスを成立させる必要があるとのユニークなスタンスに立っています。
次に【戦略】ですが、
消費者の需要を生産に結びつけ、生産を物流に結びつけることで、若くファッションに敏感な都市型住民に、より早く商品を届ける。
というものです。消費者の需要の変化を予測することはしないが、「その需要の変化に対して出来るだけ早く対応し、消費者のニーズが変わりきる前に、求めている商品を届けよう」というのが狙いです。競争戦略の観点でいうと、他店では欲しいものが見つからなければ、次来店したときにもないが、ZARAに行けば、1回目はなくても、2回目の来店時には欲しいものがみつかる。だからZARAに買い物に行くというイメージだと思います。
そして、上記の戦略を実行するための【制度・仕組み】としては、
・商品の発注権限は、店長に完全委譲。本部からの押し込みはない。
・店舗に、バックヤードは置かない。在庫を置くくらいなら、全てお客さんに見える場所に置く。
・商品のコンセプト立案から製造までかかる時間は3週間。(他社は平均9ヶ月)
・生産は、スペインの工場に集中。工場では、多品種少量生産が可能。
・物流センターは、徹底的に自動化を推進。
・必要のないテクノロジーは導入しない。
・在庫管理は95%の精度で十分。100%の在庫管理を目指すと、余計にお金がかかる。
【実行】としては、以下が挙げられます。
・長持ちする服は作らない。(大体10回着れば、がたがくるクオリティ(耐久性)に設計されている)
・年間、11,000の新商品(競合は2000~4000程度)を導入する。その結果、3~4週で、売り場の陳列商品の75%は入れ替わる。 ⇒ ZARAの顧客は、気に入った商品はその場で買わないと、次回来店時にはなくなってしまうことを知っている。
・新店は、店舗の立地を重視し、都市中心部の一等地を確保する。
・広告宣伝は行わない。(需要喚起にお金を使っても、生産的でないので)
・週2回の発注で、約2日で店舗に商品が届く。
・新商品については、店長がオーダーしなくても、市場テストの意味合いで少数配送される。
広告宣伝しない、長持ちする服は作らない、店舗にバックヤードを置かないなどは、まさに”捨てる”戦略であり、このあたりの割り切り(=徹底)が他社との違いを生み、競争力につながっているのでしょう。