今Moduleから始まったEntrepreneurshipの授業。複数の教授が一つのクラスを受け持つ仕組みになっているようなのですが、1回目と2回目の授業を担当するのは齢60歳超と思われる白髪のおじさま。そんな彼も、自身で起業したことのあるアントレプレナーなのです。
昨日の授業は、Pyron社の買収に関するケース。
Pyron社は、米国にある、工業用ガラス関連製品を販売する小さな会社。一時は業績好調だったのですが、近年はマネジメントの欠如、新製品の遅れにより業績は急激に悪化。直近年の業績は、売上2億円、純利益-7,000万という状態。多額の負債により資金繰りに苦しみ、自力での業績改善の見込みが立たないため、自社を売り出すことしたのです。買い手として、現れたのはDTGというハイテク企業で、Pyron社のテクノロジーと人員に魅力を感じ、買収提案を行いました。
さて、あなたがDTG社なら、いくらでPyron社を買収しますか?
というのが、ケース(および授業)の議題。
授業では、DTG側とPyron側の2チームに分かれ、各チームで買値と売値を決め、その後ディール交渉を行う流れになっていました。私はDTG側のチームでしたので、いくらでなら買うかをみんなで議論し、DCF法を用いた企業価値評価も行いましたが、株主資本の簿価にあたる1,500万円をベースの金額と設定しました。
チーム討議後、クラス全体での議論を開始したのですが、おもむろに教授が「今日、このケースに登場する起業家がきているんだ。みんな会ってみたいか?」というので、周りは「なんだ?」と思いながら「会ってみたい」と。すると、教授は「じゃ、ちょっと待っててくれ」と言い残し、部屋を出て行きました。。。
そして、30秒後、野球帽をかぶった白髪の紳士が現れたと思えば、それは”教授”その人! 「いや、実はDTGの起業家とは僕のことなんだ」と、このケースは自らの実体験に基づいて執筆したものだと語りました。「これは、実際の話であり、私が実際にPyron社を買収した。みんな私がいくらでPyron社を買ったかと思うかね?」
「・・・」
「Pyron社を買収した後に、事業運営を続けるためには、最低限必要なものは何だろう。それは、人と商品(在庫)だ。だから、私は当時の社員全員の雇用と給与を保障する提案を行い、在庫(=簿価で3,400万ほど)相当額として、3,000万円で買収することにしたんだ。借入については、銀行と交渉して、5,000万ある借金を1100万円まで下げてもらった。そうすることで、実質3,000万の投資だけで、この企業の買収を実施したんだ。」
「この買収案件では、実に多くのことを学んだ。当時Pyron社に足りなかったものは何か。それはManagementであり、Leadershipだった。そして、それらをDTG社が補完することができたかどうか。当時DTG社は成長していたので、優秀なミドルマネジメントが多くいた。だから、彼らにPyron社を経営させることで、人材をより有効に活用できると思っていた。しかし、現実にはPyron社の現場に関する知識をDTGのマネジャーは持ち合わせておらず、結果的に必要とされていたManagementを提供することができなかった。つまり、レッスンとしては、被買収側が必要としている具体的なリソースを買収側が提供できるかであり、Pyron社が求めている実務的なマネジメント力をDTGが提供できたのか、ということだった。」
「このPyron社のケースで学んだことを生かして、後の買収案件を成功させ、何十億も稼いだのだよ」
というところで、授業が終了。
買収交渉に関しても、その教授は明確なprinciple(原理原則)を持ち合わせており、その点も大変勉強になった授業でした。