新しい産業の勃興を促進させるというVCの社会的価値は高い。しかし、日本のVCのパフォーマンスは、米国のそれと比べて随分低い。この前読んだ本に、アメリカのVCのIRR(年間利回り)は平均15~20%である一方、日本のVCのIRRはほぼ0%(もしくは、若干のマイナス)という状況とのことだった。

これはつまり、VCファンドへの出資者へのリターンがほぼない状態ということで、日本のVC産業は、残念ながら本来のミッションを果たしていないということになる。(出資者の期待利回りを実現してこそ、長期的なベンチャー支援が可能となるビジネスのため)

では、日本のVCのパフォーマンスが低い理由は何故なのだろうか。その仮説を、4つほど提示してみたい。

1)そもそも有望な(そして山っ気のある)ベンチャー企業の絶対数が少ない
これは、アメリカでのビジネス環境を目の当たりにした際に、日本との違いの大きさにびっくりさせられたことだ。まず、日本だと起業すると、「おぉ、思い切ったなぁ」とやや変わり者扱いされるのが通例で、優秀な人はこつこと大企業で出世をという考え方が主流だ。けれど、アメリカでは本当に優秀な奴は自ら起業していくんだという考え方が普通で、学生でもどんどんビジネスを始めるし、失敗を厭わない精神・風潮がある。だから、どんどん面白いビジネスがでてくる。最近だとGrouponが良い例なのかもしれないが、そのように新しいビジネスモデルが生まれてくる土壌が全く違う。日本で、優秀な若手経営者は多いという話も聞かれるが、ホリエンモン・ショックもあり、随分リスク回避的になっているというのが率直な感想。そのため、VCが投資しようにも、なかなか筋の良い(EXITを期待できる)VBを見つけられないという実情があると思います。

2)経営人材を見つけられない
次にVBの経営者の問題。これはインターン先のファンド社長が強く力説されていたことなのだが、ものづくりのできる技術者が社長をしているベンチャー企業などが圧倒的に多く、そうした人たちには経営者としてのマネジメント能力が足りていないため、事業としてちゃんと成長できないというわけだ。これはアメリカも似たようなもので、創業社長が会社を一定の規模まで育てたら経営のプロにバトンタッチするということはよくある。しかし、日本においては、経営人材のプールがないため、外部からそのようなプロフェッショナルを調達できないというわけだ。シリコンバレーみたいなエコシステムが成立している環境がないため、プールがないというのは事実だろうけれど、大手企業の部長クラスを有望ベンチャーの経営陣に引っ張ってこれない(引っ張ってくるためのスキームを作れない)VC側にも問題があるかもしれない。

3)真のリスクマネーが投入されない
そして、VCの投資姿勢の問題。日本のVCの特徴として、投資契約の中に、(全てではないが)買取請求権を盛り込むことが挙げられる。これはつまり、何らかの問題が発生した場合には、VCは投資先に保有株式の買い戻しを請求できるというわけだ。こうした条項を入れることに対して、日本のVCは銀行と同じだと揶揄されているが、VCとしてはそう簡単に裸で資金投入できない事情があるらしい。ただ、こうした背景によって、VC側は必要以上にリスク過敏となり、本来リスクはあるが伸びるVBに資金投入していない(こなかった)ことが予想される。よって、仮にアーリーステージの投資だとして、固めのローリスクローリターン案件への投資が主となり、結果として全体のパフォーマンスが低くなっていると思われる。

4)優秀なベンチャーキャピタリストが数的に不足している
そしてキャピタリストの質と量の問題。これは推論ではあるが、日本におけるVCマーケットで、プロとして一本立ちできるベンチャーキャピタリスト(資金させあれば、エンジェルとして活躍できる人たち)の数は、多くはないと思われる。一つは歴史的な問題。ジャフコができたのは1973年でもう30年以上も前のことであるが、最近元気な独立系VCは創業10年前後が中心的であり、優秀なキャピタリストが次代を育成する仕組みが出来上がっていないと思われること。もう一つは、日本でのVC投資として、レイターステージ(上場前)での資金投入が多かったため、キャピタリストにはValue Addする能力があまり求められなかった。そのため、結果としてハンズオンでVBを育てる能力を持つキャピタリストが十分に増えなかったということが考えられる。ハンズオンを標榜しつつも、ハンズオンできる能力が十分に蓄積されていないため、思うように投資先を伸ばせてあげられないというのが最後の仮説である。

以上のことがどこまで的を得ているかどうかはわからないが、個人的な考察である。
こう書くと問題山積のようだが、だからこそチャンスもあると見ることも出来ると思います。